7月19日号


パーティー2 (ボート・パーティー) 

Harbour View Mansionというその名の通り香港に来て最初に住んだアパートはビクトリア湾に面しており、すぐ 向かいにヨット・クラブとヨットハーバーがあった。 その頃は大きく帆を張った中国のジャンクも良く見られ たが週末ともなると貨物船や外国客船に混ざって朝早くからどこかへ出かけていく優雅なレジャー・ボートや白 い帆に海の風をたっぷり受けてレースに興じるヨット等を羨ましく眺めていたものだ。

私が勤務する会社では以前エライさんや接待用にヨットを保有しており我々下々の者も時折社内のリクリエーシ ョンに使わせてもらう事があった。 仕事を終えた後最寄りのクイーンズ・ピアから乗り込むとボートボーイと 運転手の他にケイタリング業者の人が乗り込んでおり、飲み物や食べ物をサーブしてくれる。 乗り下りするフ ロアは運転席とキッチン、ラウンジ、飲み物がぎっしり入った特大アイスボックス。下のフロアにはサロン付き のベッドルームが2つ。 しゃれた内装でモダンアートの絵などがさり気なくかかっていたりする。最上階はサ ンデッキ。 海の風を全身で感じながらマットレスに寝そべりうとうとしたりビールを飲んだり。

ちょっと歩けばすぐ海の香港ではこうしたヨットを所有している個人や企業が結構ある。コンコリートジャング ルの生活とは正反対に広くて青い空のもと360度海に囲まれて香港島を1周するもよし、離島にシーフードを 食べに行くも好し、贅沢なレジャーだ。 味をしめた私は重役連が使う予定がない時は平社員にも利用できる方 法がある事を知り時々船上プライベート・パーティーをしたことがある。 ヒラであるからには使用料とガソリ ン代、ボートボーイや運転手のチップ等を支払わなくてはならないがレンタル会社から借りるより安かったよう に思うし、あまり贅沢な仕様の貸しヨットは少ないようだ。

何家族か集まって夏に水が綺麗な新界の西貢沖合いに停めて海水浴をした。 周りにも優雅なヨットが何隻か停 泊して日光浴をしたり最上階のサンデッキから真っ青な海に飛び込んだりしている。 子供たちが砂遊びをした いと言うとボートボーイが船体にくくりつけてある小型のボートを出してくれて砂浜まで往復してくれる。 静 かな入り江の筈なのに突然下からバシッと大きな衝撃を感じたのは何だったのだろうと思っていたが、それから 数日して同じ入り江で泳いでいた人がサメに襲われたというニュースが流れて、冷や汗が出た。

イースター用の飾り付けやイースターバスケットを用意してひたすら香港島の周りを回り、偶然出くわした巨大 な航空母艦を足許からまじまじと見学したイースター・パーティーというのもあった。 この時は子供の数が多 く、ずっと船に乗っていたので興奮した子供達が寝室のベッドの上で飛び回って困ってしまった。

ある年の次男の誕生日には彼のたつてのリクエストで宝島パーティーをした事があった。 今でも毎日正午にな るとズドンと大砲を鳴らすので知られている Noon Day Gun があるコーズウェイベイの波止場に集合した子供た ちを乗せた後、香港島を半周して途中島の反対側にあるアバディーン・マリナ・クラブで次男の友だちを一人拾 って目指す宝島はラマ島。 昔のアバディーンは水上生活者の拠点でさびれた漁村だったが今ではほぼ陸に上げ られ、住居を兼ねる小さな漁船群れに替わり沢山のヨットがお互いの豪華さを誇らんばかりにぎっしり並んでい る。

船上で海賊船の大砲に見立てたミートボールや海賊の義足に見立てたドラムスッテキ等のランチを食べたあと、 ラマ島に上陸。 香港島からわずか30分程の周りの離島ではどこも車の乗り入れが禁止されている。 かろうじ て走っているのはトラクターの様な荷物専用の超小型車で時折バタバタと音だけ派手に通り過ぎていく。 だか ら道も狭く人間も一列か、せいぜい二列でしか歩けない。 民家が並ぶあたりでは庭に背ばかり高くて間延びし た感じのポインセチアがぼうぼうと伸び、南国ではクリスマスの花も締まりない育ち方をしてしまうようだ。 サッカーボールを蹴飛ばしながら歩く子はしょっちゅう脇の草むらや畑に落とし、拾いに降りたついでに草をひ っぱってきたりと、なんだか遠い昔の小学校の下校風景を思い出させる。 香港の子供たちは大抵自宅近くまで 来るスクールバスで通学し中にはお抱え運転手に送り迎えしてもらっている輩もいるからこうしてのんびりした 風景の中で遊びながら友達と歩く機会が少ない。

12月と言えどもやっと涼しくなった程度でカンカン照りの太陽の下、子供たちはまだ水が恋しそう。 広くて 静かな砂浜でサッカーやラグビーを始める子達をほっぽりだしてひたすら岩場の貝やコガニなどの小動物と戯れ る次男。 それを木陰から監視する夫と私。 それぞれどんな宝物を見つけたでしょうか。 夫は何処からか見つ けて来た冷えた缶ビール。 私は遊歩道の木陰で売っていた豆腐花。木の桶に入っている豆腐で出来たほんのり 甘いプリンのようなデザートで小さなお椀に入れていれて蜜を掛けてくれる。 喉の渇きも癒してくれるし、さ っぱりした甘さは夏にぴったり。 子供たちは何を見つけたか言ってくれなかったが帰路の船上で出した宝箱の バースデー・ケーキを気に入ってくれたようだ。 半ば開いた蓋の間からおもちゃの宝石や金貨などザクザクは み出していたものだから。







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