フランスの旅 - Day 10 (Sun)30/07/2000 マナー・ハウス
ブルターニュ到着二日目はかもめの鳴き声と素晴らしいお天気で始まった。
海はすぐ近くなのだ。 朝食が終わった頃、ルペネ家の長女フランソワーズ、長男の嫁ブリジット、その息子の マティユ、そのガールフレンドのマリーズらが続々と到着し家の中は大賑わい。 今日から1週間、アレキサンド ルと我が家の次男は大学生のマティユに連れられてマダム・ルペネ家の次男ユベールの家に連れて行ってもらうこ とになっている。 ディナールの田舎にあるユベールの家ではマダム・ルペネのティーネイジャーの孫達が集りす でに合宿生活を始めており、フランス到着以来同年代の子供と接する機会がなかった次男はとても楽しみにしてい たのだ。 いろいろ注意事項を言い渡すも 「うん、わかってる。」と心はすでにここにあらず。 ドサクサのうち に出かけた後、次男の1週間分の着替えが入ったバッグとジャケットが所在無さげに取り残されていた。 (後で車 で追っかけて届けてもらった。)
さて若い子が出て行った後、残った我々一行9名はフランスワーズとアニェスの運転する車二台に分乗しマダ ム・ルペネの亡くなった夫君の弟アランの家に向かう。 末弟といっても多分70歳を超えているアランは田舎の 大きな家で僧として独身生活を送っており、毎年家族、親戚、友人、村の人たちをパーティーに招待しているのだ そうだ。 とても面白い家だしいい機会だからと部外者の私もお供させてもらった。 ブルターニュの田園風景を眺 めながら1時間ほどのドライブで到着。 麦やとうもろこしの畑に囲まれた敷地の門を入ると、早速フルーツパンチ を振舞われた。 芝生の広い庭には色鮮やかなピンクの紫陽花と真紅のジェラニュームが咲き誇り、なにやら食べ られそうな実が沢山なった大きな木の下には長テーブルと長いすがいくつも並べられガーデンパーティーは始まっ ていた。 古い3階建て石造りの家はManoir マヌワール (英語でいうManorHouse) つまり田舎によくある領主の邸 宅と言った感じで、屋根はブルーががかったグレーの石で葺かれ、窓の周りは御影石で縁取られたブルターニュ特 有の建物。 屋根の端に面白い石の彫り物細工が載っていて、煙突にもいろいろ彫り物がされ1696と彫られて いる。築300年以上ということになる。 よく手入れされているようだがさぞかし維持が大変なことだろう。
当主のアランは大勢の招待客を接待するのに忙しい中、イヴォンヌともに家の中を案内してくれた。 玄関を入る と2階に通じる階段がありその裏に古い石の流し台がある。 その右側を入った大きな部屋には大きな暖炉があり ブルターニュ名物のガレット(そば粉で作るクレープ)を焼く大きなガレチアが掛かっていたり、黒光りした重々 しい家具が並ぶ。 その一つがボックス・ベッド。 ブルターニュの冬は寒いので暖房が十分でなかった昔の人は 箱で囲まれたベッドで休んだのだそうだ。 ボックスといっても彫り物がしてあったり出入りするドアがついて いたりして家具としての装飾性が高く、なかなか立派だ。 反対側のサロンにはルペネ家の人々が描いた絵や写真 にその時々の催しに合わせてぴったりのシャンソンの歌詞が添えられ身内にも外部の人にもルペネ家の人たちの様 子を楽しめるように展示されていた。 ルペネ家は絵心、詩心、歌心に恵まれた人が多いようだ。 それにどの人もと ても親切で話題が豊富。 暖かいハートで仲良くまとまり、多くの友人や土地の人たちに愛される大家族。
二階には寝室が並び、その一つに入ってみた。 この部屋には秘密の仕掛けがあるという。 フランス革命時、多く の僧侶達は迫害を恐れあちこちの地に散り身を隠したのだそうで、この家でも追っ手が迫ってくると隠れ場所に身 を潜めたそうだ。 隅々まで調べてみたが分からない。 アランが見せてくれた仕掛けは隣の部屋との壁の腰板。 一部がそっくり外せるようになっており、奥行き70cmぐらいの壁の隙間が現れた。 なんと土の床は人の形に 窪んでいて追っ手が去るのをそこで横たわって待っていたのだろう。 裏の離れは小さいチャペル。 アランは亡く なった姉のマリーとここで孤児院を営んできたのだ。 入り口に、4つの大切な言葉が貼ってある。 S’il te plait (please)、 Pardon (ごめんなさい) Merci(ありがとう)、Je t'aime (I love you)。 毎日の生活で 忘れてはならないとても大切な言葉だ。
ルペネ家は大家族で古くからこの地に住み着いていることからしてか総勢80人ぐらい集まった人達は皆親戚か古 くからの友人で次々と親しげにご挨拶を交わし、私も紹介してもらったがとても覚えきれるものではない。 ルペネ 家の人たちは皆癖のないきれいなフランス語を話すが、周りにはスコットランドやアイルランドの人のようにプル ンと巻舌で逆上がりのしゃべり方をする人達もいる。 私の耳にはフランス語とは聞こえない。 イヴォンヌによると それがこのあたりの田舎の人たちの喋べり方なのだそうだ。
ブルターニュはワインの産地ではないがサイダーの名産地。 食前酒に自家製サイダーを頂く。 続いてムール貝の 白ワイン蒸し。 (ブルターニュは海産物も豊富なのだ。) ビュッフェ・コーナーに行くとさらにご馳走が並んでい る。 サラダだけでもトマト、きゅうり、アルジェリア料理のクスクス、ライスサラダ、とうもろこしサラダ、サ ラダ菜など、全部混ぜてしまわないで一つ一つの素材を楽しめるように。 メインはロースト・ビーフ、ロース ト・ポーク、サラミソーセージの類。 バーベキューで焼きたてのソーセージも。 もちろんフランスパンにワイ ン、何種類かのチーズ。 そしてアプリコットや桃などの果物とフランのデザートも。 村の人たちや友人達が手分 けして作ったのだそうだ。 どれも素朴だが材料が新鮮で家庭的なおいしさ。 こうしたメニューなら自分にも出来 そうな気がする。 一度試してみよう。
お酒もたくさん頂き、お腹もくちて、おしゃべりも十分楽しんだ頃、子供達は庭の片隅でピンポン、お年寄りは木 陰でお昼寝、鳥打帽を被りいかにもフランスの田舎のおじさんといういった人たちは何組かに分かれペタンクに似 たゲームを始める。 丸い鉄のボールを使うペタンクは主に南仏の遊びだそうだが、ここでは丸くて平たいpaletパレ と呼ばれる鉄の玉を5メートルほど離れた木枠に投げ入れる。 どういうルールなのかよく分からないが皆真剣そ のもの。 何故か女性が参加しているのを見たことがない。
フランス人の飲むコーヒーはとても強い、お砂糖を入れる人もいるがブラックで飲む。 私などは牛乳で倍以上に しなければ手に負えない。 そのコーヒーを啜りながら頂いたのがブルターニュのお菓子、Far。 気に入ったので レセピーを手に入れ自宅に帰ってから試してみたが簡単においしく作れる。
今日のお料理。 Far aux pruneaux(プラムのファー)
1. オーブンを240度にセット。
2. 振るった小麦粉125gに砂糖125gとベーキングパウダーの子袋2分の1、塩一つまみを混ぜる。
中央にくぼみをつけ卵4個を割り入れ木じゃくで中央から少しずつ小麦粉を取り入れるようにして混ぜる。
3. 牛乳750ccにラム酒大さじ3杯とプラム250gを加え暖める。
4. 2.に 3.を少しずつ混ぜ入れ、プラムは最後に。
5. バターを塗った焼き型に材料を入れ、最初の10分間は240度で、その後200度に落としさらに30分焼 いて出来上がり。
これを食べれば気分はブルターニュ。