6月5日号


西安の旅 − 3




陜西省博物館
大雁塔の近く、古都にふさわしい伝統的な建築様式を取り入れスペースにゆとりがあるのでゆっくりと見学できる。展示物は先史時代の遺跡からの出土品から年代順に進み、秦の始皇帝が中国を統一し唐の時代一大国際都市として栄華を極めた頃の美術品が圧倒的。始皇帝のものほど大規模でなく、大ぶりのお雛様のような土人形が並んだものは唐の時代だろうか。貴族か豪族かの家族や家臣がずらっと並びシンプルで丸みを帯びた全体、服装や髪型、色使いなど日本の天平時代を思わせ平和な時代に成熟した文化を感じさせる。仏教が渡来してからは仏教美術が目立つ。邪悪な鬼を踏みつけ、激しくつり上がった目玉は飛び出し、髪は炎のように総逆立ちの天王(日本語の仁王にあたる)像が何体かあって小ぶりながらもその迫力にしばしその場に釘止め。宋、明の時代になると都が移ってしまうので少し寂れた感じがするが展示品の豊富さはさすが。

清真大寺 (回教寺院)
南門を入った鼓楼のすぐ北裏に位置する。この辺りには「清真」の看板を掲げたイスラム料理店が多い。「清真」とはイスラムのこと。回教徒居住区にあり、女性はスカーフ、男性はトルコ帽でイスラム教徒とわかる人たちがちらほら見かけられるみやげ物店がひしめくように並ぶ路地を進むと清真大寺の門が現れる。中に入ればひっそりとした落ち着きと静けさに包まれる。清真大寺は742年の創建以来何度も建て替えや拡張が続けられたイスラム寺院。一見普通の仏教寺院と何ら変わりないがよく目を凝らしてみると柱や梁にアラビア文字が見られ細部の装飾にイスラムの世界を感じさせる。西域からの多く文化や経済と共に回教もこのかつての国際都市の宗教の一つとして定着しているようだ。千年以上の時間に加え、その間の戦乱、政変、革命の嵐をよく生き延びたことだ。

瓦屋根の先端が反り返った最初の木の門、「木牌坊」をくぐると左右に明・清の時代の建物が並び、古い重々しい家具や仏具、いや回教だから回具(というのだろうか?)が展示されている。五つの中庭は石の門「石碑坊」や三重の塔などで仕切られ最後にひときわ大きな礼拝大殿が現れ、ここで日に何度かの礼拝が行われる。礼拝の時間ではなかったがそうであれば一層不思議な世界だったことだろう。

回民飲食街 (大麦市場)
清真大寺からそう遠くないところにあり、うっかり通り過してしまいそうな狭い路地はごみごみした縁日のよう。路地入り口のアーチてっぺんに回教のシンボル三日月が掲げられていて納得。狭い路地の両側にずらりと食べ物屋さんが並び、真中にも屋台が並ぶ。ここでの名物は羊肉のケバブ。店を物色している間に湯気の出ている蒸篭からあつあつの肉まんを2個買い歩きながら食べる。一個1元。

とあるケバブ店に入り、表で焼いたケバブとビールを頼む。しかし、回教徒はアルコール禁止なので店の客にも売らない。ケバブは一皿5本入りで5元。その他、焼きそばと野菜炒めを注文。焼きそばはうどんのように太い。野菜炒めはしゃりしゃりしたじゃがいも主体でビールがあれば最高だったのだが。 珍しいもの好き、怖いもの知らずで物見遊山気分満開の私に反して夫は昔から中国の各地でいろいろと苦労したのか、こういう闇市みたいな通りの小汚い店に警戒心を抱きながらも付き合ってくれているわけである。 コレステロール値を気にしてケバブの脂身をはずし、二人で半分ずつ恐々食べてみる。 肉は硬いが味付けはいける。 そこへ高校生ぐらいのお兄さん二人連れが入ってきて隣のテーブルにつく。彼らの注文したものがやがて運ばれてきてびっくり。大皿にうずたかく積み上げられたケバブはゆうに40本あろうか。すました顔で片っ端からやっつけ、その華奢な体にどんどん詰め込んでゆく。おまけに各自大どんぶりの麺類とスープもぺろり。

デザートは先ほど道の真中の屋台で目をつけておいた緑豆餅。小豆より小さな緑豆を煮て磨り潰し、金つばのように四角く固め中に漉し餡がうっすら入っている。甘さ控えめ、緑豆の自然な風味。 もう一つ、一見丸い栗のケーキにチョコレートが何層か入っているもの。試しに一切れ頂戴と言うと包丁を濡らして1元分切り分けてくれた。なんとも素朴な味は煮て磨り潰した黄豆を寒天で固めたもので、チョコレートの層に見えたものは干し柿のスライス。純自然食品で誠に結構なお味。前菜からデザートまで二人分で20元以内。邦貨にして300円。お値段も誠に結構でした。


区画整理
西安の目抜き通りは何車線あり広くて立派だが脇道に入ると狭い通りに民家と商店がひしめきあい、普段の日の昼間でもどこから集まるのか常に人が溢れている。それに加えて道路拡張や区画整理やらで街中工事だらけ。車も人も思うように進まない。清真大寺から西大街を西門に向かって1kmとそう遠くないので途中まで歩いたがここでも道路拡張工事のため思うように歩けない。商店が並ぶ煉瓦造りの古い建物の取り壊し作業は安全シートもかけないまま手作業。ドリルマシンを使わないから騒音や振動は大したことないが解体中の窓枠が落ちてきたり、歩道に瓦礫が散乱して歩くのも危ないので途中でタクシーに乗った。建物自体はとっくに取り潰されているのにそこだけ何故か残っている店で何事もないかのように商いを続ける人たち。取り壊した建物の瓦礫の中に座り込んでもくもくと煉瓦の選別作業にいそしんでいる人。リサイクル出来そうなものを探しているようだ。




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