ギズボーン
世界で一番早く朝を迎える町はニュージーランドのギズボーン。 ミレニアムの時は一番の日の出を見ようと賑わったそうだ。 ニュージーランドには南太平洋の島から渡ってきたマオリが先に住み始めたが、西洋からは1769年10月9日にタヒチから航海を続けてきた英国人ジェイムス・クックに発見されている。 上陸してマオリに食料補給を求めたところ冷たく断られたのでその腹いせに、ここをポヴァティー・ベイ(貧乏湾)と名づけ、次に立ち寄った場所ではたっぷりと食料を恵んでもらえたので、そこをベイ・オヴ・プレンティー(潤沢湾)と名づけている。 ジェイムズ・クックも単純な人だが、ギズボーンの人も何故か自分達の地域の名前を変えることなく今も使っている。 だけどスポーツ大会で「Poverty Bay」なんて書いたタスキをかけてにこやかに笑っている団体の気持ちはよく分からない。これがキーウィ−のユーモアなのだろうか。
長男の学校の寮にはギズボーン出身の子が何人かいて学校の休みの時に時々招待してもらっていた。 ギズボーンに限らず田舎の人は気取らず暖かくてとてもいい雰囲気なのだ。 なかでもチャーリーの家族ともう一家族には長男が入学後間もなく学期半ばで寮を出なければならない週末に一緒にホリデーに連れて行ってもらって以来何かにつけて随分お世話になってきた。 お世話になりついでと言ってはなんだが、長男の卒業式に出席するためにオークランドに出かけた帰り、夫と私、次男とその友達一人を伴ってギズボーンのチャーリーの家族を訪問させてもらうことになった。 残念ながら肝心の長男は大学に提出する作品作りに手間取り参加できなかった。
チャーリーの何代か前のおじいさんはイギリスから入植しギズボーンで農場を始め、やがてマオリの酋長の娘と結婚した。 以来家族はこの地で大きな農場を経営してきた。 ギズボーンの街から車で30分ほどの村にある古い家は緑豊かな中に色とりどりの花が咲き乱れ素晴らしい環境。 広いお庭はよく手入れされ、芝生のテニスコートまである。 居間には一代目のおじいさんとおばあさんの古い肖像画があり、随所に置かれた先祖伝来のアンティークの家具や銀器とともとても居心地よい。 そんな暖かいチャーリーの家庭で夏のある週末たっぷりくつろがせてもらった。 チャーリーのお父さん、ジョンはポロが得意で若い頃一年かけてアフリカ、ヨーロッパ、南アメリカとポロの試合をしながら世界旅行したという話はかねてから聞いていた。 その話を持ち出すと「ポロというとヨーロッパでは貴族のスポーツだけどニュージーランドの田舎では誰でも馬に乗るから全然どうってことないスポーツないんだよ。」とのお返事。 もっとも今は牧場を駆け回るのも馬に代わって四輪駆動のバイクになってしまったから田舎でも純粋なスポーツになってしまったようだ。
その四輪駆動のバイクに載せてもらって牧場見学に連れて行ってもらった。 つい数日前、立派ななテイルコートにスリムな身を包み卒業式に臨んでいたジョンは農作業などできる人にはとても見えなかったが見事に変身し颯爽とバイクをうならせて家の裏から現われた。 なだらかだが起伏のある丘陵地でしっかりつかまっていないと振り落とされそう。 途中でシープ・ドッグ二匹に迎えられて羊と牛の放牧地に向かう。 私はシープ・ドッグの働きぶりを実際に見るのを以前から楽しみにしていた。 丘の斜面でのんびり座り込んでいる牛の群れを移動させるため、ジョンは笛の音色を微妙に変えながら犬2匹にそれぞれの持ち場の指示を与えている。 専門用語を交えながら早口で軍隊式の厳しい口調だ。 私達と話す時のいつもの穏やかさはどこにもない。 彼はこの広い農場をたった一人で切り盛りしている。 忙しい時は季節労働者を雇ったり業者を使ったりしているのだそうだ。 ここでは牛小屋や羊小屋といったものはなく牛も羊も一年中野外で暮らしている。 でもたまには大雨や嵐の日もある。 動物愛護主義のイギリス人はこういうのをみてニュージーランドの農夫は残酷だというらしいが、ニュージーランドは四季を通じて気候がずっと温暖なので必要ないのだ。 平地にレタス畑がある。 羊に食べさせようと作ってみたのだそうだ。 これもジョンが一人でやっている。 考えてみるとニュージーランドは土地が肥沃で太陽に恵まれ日本のように手間のかかる集約農業をしなくても作物はぐんぐん育ってしまうのだ。 作物でも花でも植えてしまえば後はその季節に勝手に実ったり咲いたりしてくれる。 太陽の恵みをたっぷり受けた野菜や果物は香りが高く味が濃い。 偉大なる農業国ニュージーランド。
私達は4人でお邪魔したが、滞在中チャーリーの友達や近所の人たちがが入れ替わり立ち代りひっきりなしに訪れていた。 しかし食事時になるとちゃんと人数分の食事がこともなく現われるのには驚いてしまった。しかも美味しい。後片付けは決まって男性陣。 チャーリーも立派なキーウィ−・ハズバンドになれそうだ。 ジョンと夫人のジョーの気取らない暖かいもてなしに甘えて美しいギズボーンの夏の週末をたっぷり楽しませてもらった。 ありがとう。
ギズボーンの海。 12月の真夏だが曇っているせいか春霞のよう。うららか。
ギズボーンの海辺に佇むキャプテン・クック像
キャプテン・クックが乗ってきたエンデヴァー号はこんな船だったのかな。
ギズボーンは一歩町をでるとこんなひなびた田舎。
チャーリーの家のテニスコートはふかふかの芝生。 全員裸足。 チャーリーと次男がペアを組んで。 汗をかいたら隣のプールにザブン。 なんと素晴らしい環境。
庭の木から空き缶の的を吊り下げて射撃ごっこ。
チャーリーの大学資金用の植林。
近くにある岩場の滝。ここへサーフボードを持ってきてロック・スライド。かなり距離もあり勾配がついているので恐そう。 岩の表面はデコボコしているところもありビュンビュン跳ねながら滑り落ちていく。 真中あたりまで行くとかなりスピード。
あっという間に滝壷の泡と化し。
近くにあるもう一つの滝。地元の人は知っているが観光客は知らないだろう。
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