フランス・イタリアの旅 6
フィレンチエ
夕刻5時の列車でフィレンチエへ向かう。ミラノ・ナポリ間はイタリアの言わば大動脈にして最大の幹線。車内はほぼ満席。国内列車のため車内放送はイタリア語のみ。車窓の景色がトスカナ地方特有の糸杉の丘になり2時間45分で花の都フィレンチエに到着。 ホテルは駅からすぐのところを予約しておいた。着いてみると2年前に泊まったホテルのすぐ向かいではないか。しかし今回のホテルは最近内装を新しくしたばかりなので快適。荷物を置いて早速散歩がてら夕食にでかけた。ミラノでの経験として分かったのだがホテルで紹介してくれるレストランはおのぼりさん専用のキライがある。自分たちで気に入った美味しいレストランを見つけるのはそう難しいことではないことも分かった。 で、自らの嗅覚と感を頼りに選んだレストラン、この日もそんな感じで満足であった。ライトアップされた総色大理石造りのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会をながめながらサラダ、スパゲティ・カルボナーラ、仔牛のカツレツ、そしてデザートのミルフィーユなどを堪能。ウエイターもミラノより人懐こく親切。
一夜明けて本格的観光開始。まずはUffiziウフィツィ美術館。フィレンチエはイタリア・ルネッサンスの発祥の地として知られているが、そのルネッサンスの大スポンサーであるメヂチ家の管理事務所だったのがUffizi、(英語のOfficeにあたる)つまりフィレンチエ公国の行政事務所でもあったのだ。 余談ながらメヂチ家とくればフランス王に嫁いだカトリーヌ・ド・メヂチ。 当時のフランスは宮廷と言えどもまだ洗練されていなくて食事は手づかみ。 ナイフやフォーク、ワイングラスなど彼女が嫁入り道具としてフランスに持ち込んだのが最初と言われている。 このあたりはシニョリーア広場Pizza della Signoria、ヴェッキオ宮殿Palazzo Vecchioitと名だたる建物とアルノ川に挟まれた観光名所。ウフィツィ美術館はきちっとしたコの字型の建物で中心部のギャラリーがアルノ川に面しているので迷わない。 ボッチチェリの「春」「ビーナスの誕生」ダビンチの「受胎告知」などは日本人に馴染みが深いが彫刻や絵画の数が膨大、しかもどれも歴史に残る大芸術家によるものだからじっくり見物していたら何日もかかるしヘトヘトになるので適当に見たいものを絞って切り上げる。
ヴェッキオ橋
ウフィツィ美術館をアルノ川の方に出るとそこがヴェッキオ橋。橋の両側の壁に奇妙な格好で家々が張り付き、フィレンチエの代表的な顔の一つ。アルノ川には昔からこのような橋が沢山あったが戦争や洪水で失われ、今ではヴェッキオ橋を残すのみになってしまった。13世紀には肉や川から上がった魚の市場があり、肉や魚を捌いた後の生ゴミを真中にあいているアーチから捨てていたらしい。宮殿近くに見苦しいものは好ましくないし、衛生上よくないということで後に現在のような宝飾店が並ぶようになったそうだ。 前に来たときは気が付かなかったが、今回はアフリカ系黒人や中国本土からやってきたような人たちがたくさん橋の上をたむろし、それぞれ安物のバッグや中国大陸性のちゃちな玩具を売っていた。 イタリア有数の観光名所まで来てこういう光景を見たい人やこういう物を買う人がいるのだろうか。
ピッティ宮殿Palazzo Pitti・ボーボリ庭園 Giardino di Boboli
15世紀の銀行家ピッティが建てたフィレンチエ・ルネッサンスの典型的宮殿。しかし建設費用がかかりすぎたため財政困難に陥り、メヂチ家のコジモ1世に売却せざるを得なかった。宮殿内は現在いくつかの美術館になっているが裏側のなだらか丘には広大なボーボリ庭園が続く。花壇や池、林などが点在し恰好の散歩コースだが今ひとつ手入れ行き届いていない。 コジモ1世の妻エレノーラが作らせたという洗練されたイタリア庭園、またフランスのシュノンソー城にあるカトリーヌ・ド・メヂチの見事な庭園をイメージしていたのだがかなり外れた。
草ボウボウの花壇。もう少し手を加えるとよくなると思うのだが。
ボーボリ庭園丘の中ほどから。ドゥオーモの屋根とジョットの鐘楼が見える。
庭園頂上からの眺め。右側はべルべデーレ要塞。
ミケランジェロ広場
ヴェッキオ橋からアルノ川沿いにしばらく歩き小高い丘に登ったところがミケランジェロ広場。ダビデ像のコピーがおいてある。 ここから望むフィレンチエの街はなかなか。アルノ川、ヴェッキオ橋、ヴェッキオ宮殿の塔(工事中のやぐらがかかっている)、さらに右側にはドゥオーモの丸屋根、ジョットの鐘楼が見える。古い町はいいなあ。 そしてこの街には世界に残る歴史が凝縮し、美しく保存されている。 街の景観を保存するだけでも大変な努力を要するのだろう。 高層ビルはもちろん近代的なビルや電車、高速道路を走らせる訳にいかないし、外壁の修理や建て直しなど細かい規制が沢山あるのだろう。 ドゥオーモのずっと先のホテルから出発し、ドゥオーモやジョッティの鐘楼を眺め、ウフィツィ美術館、ヴェッキオ橋を渡ってピッティ宮殿、そしてまたヴェキオ橋まで戻り、ミケランジェロ広場まで歩いて来てしまった。
サン・ミニアート・アル・モンテ教会San Miniato al Monte
ミケランジェロ広場の更に丘の上。 紀元前250年、この地で亡くなり埋葬された聖人ミニアートに由来している。夕日に映える色大理石を組み合わせたファサードはフィレンチエでも最も美しい教会とされている。 内部の床の大理石モザイクや壁の装飾も見事。この日は歩きも歩いたり2万歩。フィレイチエの街は端から端まで歩いて回れるとはいえ、さすがに足もパンパン。静かで美しい教会内で少し休ませてもらった。
歩き疲れたせいもあるが、熱さと喉の渇きから相棒は「ビール、ビール」とわめき続けていた。 しかし飲み物を売っている店がみつからない。 もちろん自動販売機なんてものはない。 丘を降りたところで夕立にあい、しばし木陰で雨宿り。隣の木では14−15歳頃のカップルが仲良く雨宿り中。 男の子は自分のジャケットを脱いで女の子に羽織らせ、肩を抱き、と、子供でもさすがイタリア人。なんだか映画のよう。 雨脚が遅くなったところで少し歩き、最初に見つけたバーに飛び込んでやっとビールにありついた。 町外れの何気ないバーだがここでもウエイトレスの女の子が美人でスタイルも抜群。 街の人が出たり入ったり、雨の中を自転車やバイクでやってくる人、知り合いを見つけて握手や抱擁でご挨拶したり、ちょっと話したり誰かに何かを渡して去る人。 おなじみさんの集まるバーなのだろうか。のどかな光景だ。 ふとアルノ川の向こうを見ると雨上がりの空にうっすらと虹が。残念ながらあまりにうっすら過ぎて写真には写らなかった。
昼食はアルノ川のほとりのレストランで。サラダ、スパゲッティ・ボロネーズ、ポーク・ステーキ。もちろんワインとカプチーノも。夕食はドゥオーモの近くのピッザリアで薪の釜で焼いたピザ。大衆食堂といった趣でピザ以外のメニューも豊富。野菜スープ、タコのサラダ、フルーツサラダなどもいっしょに。 どれも美味しかったがその場で作って焼いて食べさせる本場のピザはさすが。 隣のテーブルには職人風のおじさんが一人。 独身なのか家族とホリデーを過ごした後仕事のため一人だけ早く帰ってきたのか。 それとも出張で来ているのか。 息子たちの学校の以前の寮長先生に面差しが似ていてなんとなく親しみを感じてしまった。 一人でいくつかの料理をきちんと食べ、最後に「なんとかコーヒー」をオーダー。 美人で愛想のいいウエイトレスが「一緒に?それともナントカ?」と聞いた後運んで来たのはエスプレッソと小さなグラスに入った透明の飲み物。 ははん、メニューにあったコーヒーと食後酒のことらしい。 コーヒーに入れて飲んでもいいし、別々に飲んでもいいのか。 これ、試す機会を逸してしまった。 次回のお楽しみにとっておこう。
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